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シカゴ発・アメリカ郊外生活

そのとき未来の歴史は作られた!
子どもたちが体験したオバマ新大統領誕生の瞬間【vol.4】

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“奴隷解放の父”リンカーン生誕から200年。歴史の第二の扉が開いた。

 アメリカ人にとって今なお特別な存在であるリンカーン。そのリンカーン生誕からちょうど200周年にあたる今年、各地ではさまざまな記念イベントが開かれています。

近所の図書館にやってきた“リンカーン”。

 リンカーンの地元であるイリノイ州の州都スプリングフィールドでも、誕生日の2月12日に生誕祝賀式典が、約1ヶ月前に第44代大統領に就任したばかりのバラク・オバマ氏夫妻を迎えて盛大にとりおこなわれました。奴隷解放宣言(1862年)から約150年の時を経て、奇しくもアメリカ初の“黒人の血を受けた”大統領が同じイリノイから選出されるという、この運命ともいうべきめぐり合わせ。リンカーンを心から敬愛するオバマ新大統領の胸に去来するものはいったい何だったのでしょうか?

 オバマ新大統領の誕生はアメリカ国内のみならず世界中でも希望的なニュースとして伝えられました。同時多発テロ、アフガン、イラク戦争、そしてとどめは大金融危機と、何もいいことのなかった8年間。その悪夢の果てにアメリカが下した新たな選択に、人々は狂喜したのです。それはまた、アメリカがもはや白人だけの社会ではないと内外に告げた瞬間でもありました。黒人をはじめとするヒスパニックやアジア系などの有色人種、いわゆる“マイノリティー”たちがひとつになり、新たな“合衆国・アメリカ”の指導者を誕生させたといえます。

 この歴史的な大統領選挙を、オバマ新大統領の地元であるシカゴで体感できたのも何かの運命。今回は、大統領選にまつわる様々なニュースを通して、アメリカ人がこの4年に一度の大統領選挙をどのようにとらえているのか、そして子どもたちにどのような影響を与えたのかなどをお伝えしていきたいと思います。

2年間の長丁場がもたらした影響力。

大統領選挙の年には、自宅の玄関先に支持する候補のサインを掲げる家が目立つ。これらの選挙応援グッズは候補者にとって貴重な収入源。

 オバマ氏がアメリカ大統領に正式に立候補したのは、2007年2月10日。つまり立候補から就任まで丸2年を要したことになります。日本では考えられない長さですね。しかし、この2年間の選挙期間は有権者にとってとても重要。というのは、その間に行われる数々の遊説や討論会などを通して、候補者の人となりやビジョン、選挙公約などをじっくりと検討することができるからです。言いかえれば、この間に「口先だけの人物」は淘汰されていくわけです。

 特に、戦後最大の経済危機と重なった今回の選挙では、大統領選びのポイントは終盤で「とにもかくにもこの経済危機から救ってくれる人物は誰か?」という一点に急激に絞られていきました。その結果、一貫して経済政策に主軸をおいて訴えていたオバマ氏が有利になったともいわれています。「アメリカ人は、賢い人ではなく“一緒に飲んだら楽しい凡人タイプ”を大統領に選ぶ」と、アメリカ人自身よく自虐的に言いますが、事ここに至ってはそうもいかなかったということでしょう。今回は、2年の年月がオバマ氏に味方したといえます。日本の現状を省みるにつけ、この贅沢な時間はとてもうらやましく感じずにいられません。

子どもたちの目に大統領選挙はどう映っていたのか?

 選挙もいよいよ押し迫ってきた去年の10月のことでした。私が通っている大学の授業中に「子どもたちは大統領選挙のことをどの程度わかっているのか?」という話題になりました。ここでいう子どもたちというのは、プレスクーラー、つまり4〜5歳児をさしていたのですが、ある女子学生がこんな体験談を聞かせてくれました。
  「チャイルドケアをしていた家の子どもが、お友達に『オバマはね、赤ちゃんを殺しちゃうんだよ』って言ってたの。ぎょっとしちゃった」

 大統領選では、経済、外交、医療、エネルギー問題など様々なトピックが争点となりますが、そのひとつが「妊娠中絶問題」。女性の人権擁護の立場から一部容認の立場をとる民主党と、キリスト教保守層の圧倒的支持を得て反対の立場をとる共和党とで、アメリカは真っ二つに分かれています。この子どもはたぶん、前者であるオバマ氏の立場を宗教的な理由から否定的に解釈をした親たちの会話を聞いてそのまま口にしたのでしょう。ぞっとする話ですが、いかに大統領選が家庭内で語られているかがうかがえるエピソードです。

第44代オバマ・アメリカ大統領誕生に沸く地元シカゴ。そのとき子どもたちは?

就任式のライブを見る小学生たち。
(photo by Joey Bonanotte/ triblocal.com)

 大統領就任式が行われた1月20日は、平日とはいえ地元シカゴはどこもかしこも祝賀ムード一色。カフェやレストランも、水族館も、病院のロビーも、雪の舞うメインストリートにも、テレビ中継を見つめる人々の姿がありました。

 またこの日、市内の小中学校では一斉に“特別授業”が組まれました。すべての学校には、就任式に先立って「The Obama Inauguration: History in the Making(オバマ大統領就任:歴史は今作られる)」という、47ページからなる教材が配られました。
 「子どもたちは特に、オバマ氏の人種や社会経済的バックグラウンド、シカゴとの深いつながりに興味を抱くようです。子どもたちが自ら政治や歴史に興味を持つこの機会を逃さず、いかに教育に生かすかが私たち教師の役目なんです」と、教師も気合十分。

 当日、各学校で行われた授業内容はこの言葉を裏付けるものでした。アメリカの公民権や歴史について学んだり、オバマ氏へ手紙を書いたり、アメリカに伝わる愛国歌を習ったり、ホワイトハウスのモデルを製作・研究したり、過去の就任演説を学んだり、はたまた“ミニ舞踏会”をするためにワルツを練習したり・・。その他にも、エッセイ&ラップコンテストを行い、優秀作品を就任式の日に、全校生徒の前で披露したという小学校もありました。
 先生も子どもたちも、共に「地元から誕生した、黒人初の大統領」という“生きた教材”を、眼にしっかりと焼き付けたに違いありません。

(左)ミシェル・オバマ夫人の出身校であるシカゴ・サウスのBouchet Math and Science Academyでは、就任式に合わせて子どもたちがミニ舞踏会でお祝い。
(右)ミシェル夫人について学んだ「研究発表」が壁一面に (Photographer: :Rachel Cromidas / Copyright :University of Chicago 2009)

就任式〜ワシントンを生で経験した、アメリカの未来を担う高校生たち。

高校生たちはここから大統領誕生の瞬間を見つめた。
(ワシントンにて photo by Matthew Mulcahy/ triblocal.com)

 「わが町の高校生マシュー君、ワシントンでの就任式に招待される!」

 ある日、ローカル新聞にこんな見出しが躍りました。地元の高校2年生マシュー君が、PYIC(the Presidential Youth Inaugural Conference:大統領青年就任会議)という組織が主催する5日間の大統領就任プログラムに参加することになった、という内容でした。このプログラムは、全米から選ばれた優秀な高校生たちが就任式の前後に行われる様々なイベントを通して、大統領選挙から就任までの一連の知識を深めるとともに、更なるリーダーシップを身につけるというものです。

 その後の体験報告によると、集まった高校生たちはこの5日間で、コウリン・パウエル元国務長官やアル・ゴア元副大統領などをはじめとした政府要人や、ホワイトハウス職員、連邦議会議員、人権運動家などの著名人たちと交流する機会を持ったほか、就任式典パレードやその夜のball(舞踏会)への参加、国会議事堂内の史跡や記念碑な見学などを体験。さらには学生討論会などを通じて、大統領選挙のプロセスや民主主義の原則などへの理解をさらに深め合ったということでした。

オバマ氏の心のふるさと、シカゴ・サウスサイドの子どもたちに与えた夢。

 ところで、今回の大統領選挙で忘れてはならないのが、黒人やその他マイノリティーの子どもたちに与えた影響です。オバマ氏がシカゴで最初に取り組んだ仕事は、荒廃した黒人貧民街の撤廃と、教育をはじめとする地域住民の生活向上のための人権運動でした。黒人が多く住むサウスサイドの一角に住まいを構え、地元のコミュニティーのために心血を注いだ経験が、今のオバマ氏の柱となっています。彼にとって、サウスサイドは今なお心のルーツであり、初心に戻れる場所なのです。

 就任式の日、テレビニュースがサウスサイドの子どもたちの様子を映し出していました。6〜7歳くらいの黒人の男の子が、きらきらと目を輝かせて「将来はオバマのような大統領になるんだ!」と言っていたのがとても印象的でした。今世紀中には実現しないとさえ思われていた黒人大統領の誕生で、マイノリティーの、特に子どもたちに与えた勇気と夢は計り知れません。

 最後に、ある小学生がオバマ氏に宛てて書いた手紙をご紹介しましょう。

 “Our government needs big changes so you need to start making these changes so when I have children our county will be stronger and safer. We as United citizens need to be blind to race, gender, religion and non-religion people. As a Chicago White Sox fan you need to step up to the plate and hit one out of the park.”

〜 Joey Estrada, 4th grader

 私たちの政府には大きな変化が必要で、あなたはこれらのチャレンジを実行にうつす必要があります。そうすれば、将来私が子どもを持ったとき、私たちの国はもっと強くてしなやかになるでしょう。合衆国の市民として私たちは、人々の人種や性別、信仰のある無しにおおらかにならなければいけません。シカゴ・ホワイトソックスのファンとして、あなたは今打席に立ち、場外に打球をかっ飛ばさなければなりません。

〜ジョーイ・エストラド、小4

次回予告

アメリカの4大スポーツと言えば、アメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケーです。最近では、サッカーも人気が出てきています。また4年に一度のオリンピックでは、陸上や水泳で、多くのメダルを獲得するスポーツ大国アメリカ。次回は、スポーツ大国アメリカの子どもたちを取り巻くスポーツ環境についてお届けします。どうぞお楽しみに!

長野尚子(ながのしょうこ)さん
長野尚子(ながのしょうこ)
アメリカ在住フリーライター。2001年、大手出版社のディレクターを退職後、単身アメリカへ留学。その後帰国し子育て関連誌の編集者を経て、結婚を機に2006年3月より再びカリフォルニア州バークレー市へ。主に教育・子育て、国際文化交流をテーマに人脈を広げながら執筆活動中。2007年10月よりシカゴ郊外に移る。3年間の留学生活を綴った「たのもう、アメリカ。 」(近代文芸社)発売中。

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