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スーパースターも みんな子どもだった
「ボサノヴァが美しい理由」

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初夏の陽気にふさわしいBGMとして真っ先にイメージするのがボサノヴァではないでしょうか。数年前の癒しやカフェブームの影響で、いまやおしゃれで洗練された音楽の定番です。日本とは異なる季節感を持つブラジルで生まれた音楽が地球の真裏で一服の清涼剤として愛好されているのは何とも不思議な現象ですが、私もこの時期に選曲の仕事をする時は自然とボサノヴァを多くセレクトしてしまいます。涼しげなギターの音色と柔らかな歌声が織り成すハーモニーはリスナーの体感温度を下げるのに大いに役立ってくれます。

20世紀のポピュラーミュージックの年表と世界地図を書き替える音楽的大発明といわれるボサノヴァを創り上げたのがアントニオ・カルロス・ジョビンです。皆さんもご存知の「イパネマの娘」の作者といえばよりわかりやすいでしょうか。日本の暑い時期がすこしでも快適に過ごせるとしたら、まずはこの偉大なるマエストロに感謝しなければなりません。
さて、当コーナーの第一回目は、アントニオ・カルロス・ジョビンが音楽に目覚めた少年時代について触れてみたいと思います。

自然が鍛える五感

1927年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで、ジョビン家待望の第一子として生まれたアントニオ・カルロス・ジョビンは、ほとんど父親と接することのない幼年期を過ごします。しかし、家には祖父母と、母方の叔父と叔母が同居していて、この祖父が父親がわりに、叔父が年の離れた兄となってずいぶんと愛情を注いだようです。祖父は孫の手を引いて森に行き、動物や鳥の名前、それぞれの鳴き声、さまざまな植物や樹木のことについて教え、風や水の流れに触れさせ、以来ずっとジョビンが抱き続ける、自然に対する特別な感情を育みます。ギターのうまい叔父は歌が得意な母とともに毎晩、伴奏つきの子守唄でジョビンを寝かしつけました。ものごころがつく前から日常的に音楽が刷り込まれていたわけです。いかにも音楽家らしい、よくできたエピソードだと思われるかもしれませんが、ジョビンが特別に恵まれているのではなく、小学校に音楽の授業がないブラジルでは、家庭や地域コミュニティが音楽的な原体験の場になるのは珍しくありません。音楽は学校で習うものではなく、生活の一部としてすぐそこにあるものだ、という認識なのです。

“夢中”は才能

音楽への自発的な目覚めは14歳の時。ピアノに出会い、この楽器に魅了されます。ピアノが設置された自宅ガレージにこもり、ボールを蹴るのも忘れ、一人で夢中になって何時間でも鍵盤に向かいました。音階や調律に興味を持つのもこのころです。息子の真剣な取り組みを見た母親がピアノ教師を招き、この出会いをきっかけにソリストになることを決意し、本格的にクラシックの勉強にのめりこみます。スケールの練習にはじまり、譜面の読み方をマスターし、和声を学び、ドビュッシー、ショパン、ラヴェルといった音楽家たちを範として、ピアノに没頭する毎日。ガレージから十時間以上出てこなかったこともざらにあったといいます。近所迷惑だと怒鳴り込まれたことも一度や二度ではありません。それでも少年は嬉々として、腕を磨き、高度な音楽理論を身につけ、少しずつ、しかし確実に音楽家へと歩を進めていくのです。

この閉ざされた空間で、気が遠くなるほど長く濃密な時間を過ごす少年を支えたものが、生来の根気強さと集中力のほかにふたつありました。ひとつは、家族の理解。誰よりも早くジョビンの才能を発見し、音楽の道を選ぶことをよしとしない時代にあって、むしろ積極的にそれを勧め、物心ともに支えたのは母の再婚相手である二人目の父でした。もうひとつは、幼いころに祖父と通った森です。ジョビンはこう言っています。「森に入ってじっとしていると、音楽がやってくる。できあがった形で聞こえてくるんだ。」と。「家族」と「自然への想い」は音楽家アントニオ・カルロス・ジョビンの生涯を通じての一貫したテーマであり、インスピレーションの源でもありました。生来のヒューマニストにしてエコロジストでもある音楽家が創り出したボサノヴァが、ポップミュージックの中でもことさらに美しく、端正で、誕生から50年経ったいまも変わらず瑞々しい理由がここにあります。

テキスト 木慶太

選曲家・DJ。USENの人気チャンネル「JAZZ STATION」、「usen for Cafe Apres-midi」の選曲やセレクトショップ「バセットウォーカー」の店舗BGMを手がける。DJとしてはブラジル音楽を中心とした選曲に定評があり、コンピレーションCDの共同監修やライナーノーツの執筆なども多数。

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